高円寺日記

気が向いたときに更新

よしながふみ著『大奥』~【役割】からの解放~

 どうも僕です

 会社からお暇*1をもらい、一人旅に行っていました。

 何か旅の道連れにと思い、以前から読もうと思いつつも買う機会を逃していた「大奥」を購入。Kindleでポイント半額バックキャンペーンをやっていたので、将来確実に買っいたことを加味すると、実質無料といっても差し支えないのでは。

 

 3日間通して暇があれば読み続け、中終盤はおいおいと泣き続け現在は喪失感を覚えております。

 

 一応ネタバレ注意です。

 

 本作は2004年8月から2021年2月まで隔月刊誌『MELODY』(白泉社)にて連載されたよしながふみ先生による漫画作品。単行本は全19巻。

 赤面疱瘡と呼ばれる若い男にのみ罹る奇病が大流行した江戸時代、男子は種馬として重宝がられ女が主体となり政治経済を回すこととなる。富と権力の為に権謀術数張り巡らされる江戸城の中、そこには美男三千人と呼ばれる男の園大奥があって、、、というSF歴史漫画。

 

 3代将軍から15代将軍までを全19巻というコンパクトな話数に収めておきながらも、物語を過不足なく語りきる構成のうまさには思わず舌を巻く。

 男女逆転によって語られるのは男性女性という性差別のおかしさだけではなく、LGBTQ+や心身の障がい、またそれらの範疇を超えた新しい家族の形や人間関係の在り方までも説教臭くなく声高にでもなく物語として非常に面白く読ませてくれる。

 また、この漫画は赤面疱瘡の流行から収束までを描いたパンデミック物としても非常に優れており、病気の克服のため人から人へ、世代を超えて思いをつなぐ最高のエピソードになっているので読んで号泣してほしい。さらにこの作品一番のサイコパス治斉を打破する物語とシンクロして描かれているのも非常に見事。

出典:大奥12巻より 今作一番のサイコパス

 

 終盤にて描かれる西郷隆盛というマッチョイムズの化身との和平交渉は、今作の総括としてこれ以上にないドラマを描き切ってくれている。

 また、最終話にて語られる出会いの小話が、男女逆転されたこの物語がフィクションであることを認めつつも、そのフィクション性をもってして現実の背中を押す最高の締め方だった。

 この物語が語られた16年間で差別がなくなったとは決して言えない。しかし悲観する必要がないことを僕らは知っている。僕らはまだ大きな歴史のうねりの中にいて、その中でうまれもった役割など決してないのだと『大奥』は教えてくれるのだから。

*1:この場合、有給休暇のこと